熟年夫婦の在宅介護生活365日「胃ろう・気管切開・嚥下マヒ・糖尿病・認知症・」心臓は生体弁・人工血管・脾臓は摘出・それでも人生は一度限り・100才を目標に生きていきます。

日本百名山を完登したけれど・寝たきり要介護5の妻を介護しながら夫の寺ちゃんが描く、子供時代と青春時代、そして今。

56回目 連載「髪の毛 一本の幸せでも 良い」

幸せの定義は 自分の気持ちで計る

 その女の人は 奄美大島出身なの と言った

僕の妻の担当ナース 若いけれど どこか 少し 陰が見えた

今日から 〇〇子 さん 担当に なりました

よろしく お願い いたします

真っ白の制服が 似合う 

夜勤 日勤 こなす ストレスも たまるだろう

大きな病院 人間関係も いろいろありそう

僕も 「こちらこそ よろしくね」と言った

くち の聞けない 寝たきりの患者 が 妻である

あっちの病院 こっちの病院 と いき

ここへきた 一縷の望み 抱いて~

手術のあとの感染症 これが 厄介だ

抗生薬 効くのも 効きがわるいのも いろいろだ

その間 体は どんどん やられていく

しまいには 手に 負えない

 

僕は 休まず 妻に会いにくる

病室の妻は ガリガリになっていて ポキンと折れそう

目と目で 微笑う

絶望 悲しみ 生きる欲は無いだろう

もう 自分が どこの 誰なのか わからないだろう

水泳が達者で 子供たちにも 教えていた

均整のとれた 美しい からだ 

病気は 治れば なんてことないが

治らないと 底なし沼へ 引きづり込まれる

 

ある日 奄美大島が 部屋に やってきた

「フーテンの寅さん」という映画 ほら 渥美清

あれ 一緒に 見にいってさ 

寅さんが 女学生三人(吉永小百合 他)に 頼まれて

カメラのシャッター押すんだ

その時さ 寅さんがさ 「バター~」って叫ぶんだ

可笑しくて 女学生が 笑い転げるんだよ

普通さ「はい チーズ」だろ

隣 みたら うちのが 大笑い してるんだ

この人 良い人なんだな と思って

映画 終わって でる時 ご飯 誘ったんだ

それで 知り合ったのさ

運命って 二人のこと こうなるの わかっていたんだなって

聞き終わると 彼女が 「素敵ね あたしも そんな恋 したいわ」

そう言って かたわらの寝たきりの妻の腕に 採血の針 刺した

「〇〇子さん 幸せ」  妻は 小さく うなずいた

そう言えば 寅さん うちの島で死んだのよね とポツリと言った

なんて デリカシーのない女なんだ 病室で 人の死んだ話 するか

うちの島 ヘビ 多いの  エ~ ギョ~ そんな話 するなよ

でも かたわらの妻の顔 見てると いいよ って顔してるし いいかな

 

今 ここに いる三人で 「幸せ」感 あびて いる

それぞれに 心の なかに ある 幸せ 

「それが 髪の毛 一本の幸せ」でも 良いと思う

なぜならば それは「自分のもの」だから である。

いい話って あんまり あるものではない

でも 結局は 「自分の幸せを 掴むのは自分だ」に つきると思う。

やがて 退院した

妻は 自宅で 寝たきりだ 僕が介護している

要介護5 訪問介護 訪問看護 訪問医師 訪問歯科衛生士 訪問美容師

訪問マッサージ 訪問PT 訪問ST  毎日 大勢の人が 介護保険一割負担でやってくる ケアマネもくる 訪問入浴もくる 

半年して 自宅に 奄美大島がやってきた

マスクしていたが 「わかったよ」「〇〇さんでしょ」と言ったら

嬉しそうに 「今月から 担当になりました」と 新しい名刺 くれた

あの 大きな総合病院は 辞めたのよ と言って 笑った

 

また 三人の幸せが スタートした。

 

 近所の公園 野良猫さん 好きで 野良猫 やってんじゃないのよ って 面と向かって 言われそう 人は死んだら 一回だけ 好きな動物に 生まれ変われるっていうけど 「」も いいかな その時 よろしくね~

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